キリスト教とグノーシス主義

キリスト教グノーシス主義では各派により細かい違いがありますが、共通する神話が存在します。

神話によるとイエスは人間に本来的自己を認識させる啓示者・救済者です。

父なる神(至高者)から派遣されて旧約聖書の創造神(劣悪な造物主)に束縛されている人間を解放するため、本来的自己の認識を説く福音をもたらしました。

グノーシス主義ではユダヤ教やキリスト教が信仰する神は偽の神です。

・マルキオンとは

マルキオン(100年~160年)は2世紀のローマで活躍した異端のキリスト教徒です。

小アジア(トルコ)のシノペ出身なのでシノペのマルキオンと呼ばれます。

マルキオンは使徒パウロに傾倒しグノーシス主義の影響を受けていました。

彼の思想には物質=悪、霊=善というグノーシス主義の影響が見られ、144年には教会を破門されています。

その後ローマで独自の教会を設立しました。

マルキオン派は数世紀にわたって存続しエジプトやメソポタミア、アルメニアなどに広まります。

キリスト教徒の中で最初に聖書の「正典」という概念を打ち出したのがマルキオンです。

マルキオンは旧約聖書がキリスト教徒にとって不要であると考え、ルカの福音書やパウロ書簡に改変を加えつつ編纂を行いました。

一般的なキリスト教におけるグノーシス主義諸派には、創世記の独自解釈や新たな福音書の創作などの特徴が見られます。

一方でマルキオンは正典を限定しており認識(グノーシス)ではなく信仰を重視します。

マルキオンによる正典編集は、正統派のキリスト教徒にも影響を与えました。

2世紀以降に正統派キリスト教でも新約聖書の正典編纂が行われるようになります。

・ボゴミル派とは

ボゴミル派は10世紀中頃から14世紀末までブルガリアを中心にバルカン半島で信仰されました。

善悪二元論と現世否定を主張しており、正教会はボゴミル派を異端としています。

ボゴミル派は10世紀の中頃にブルガリア司祭のボゴミルが始めました。

当時のブルガリアでは東ローマ帝国への抵抗運動が行なわれておりボゴミル派と結びつきます。

正統派のキリスト教を凌いだ地域もありますが、ローマ帝国が衰退してオスマン帝国領となるとイスラム教が流入します。

ボゴミル派からイスラム教への改宗者が増えて衰退しました。

ボゴミル派はフランスのカタリ派にも影響を与えたとされます。

マニ教と同様に善悪二元論に特徴があります。

ボゴミル派の独自の神話によると真の神にはサタナエルとミカエルという2人の息子がいました。

サタナエルは神に反逆してサタナ(ギリシャ語でサタン)となります。

人間の魂は神が創造しましたが、肉体は混沌から悪魔であるサタナが造りました。イエス・キリストは地上に来たミカエルとされます。

もともとは人間が神を崇拝する約束がありましたが、サタナは神に反抗する目的で地上世界を造ります。

ボゴミル派によると、旧約聖書の神であるヤハウェは自分を神として人々に崇拝させようとするサタナであるとします。

人間の魂はサタナが造った悪しき肉体に拘束されており、救いのためには全ての物質的なものを否定する必要があります。

そのため結婚や肉欲、飲酒、肉食、教会の秘跡(儀式)なども否定されます。

ボゴミル派はグノーシス主義の影響を受けており霊=正義、物質=悪という善悪二元論を主張します。

聖像や十字架、東方正教会や東ローマ帝国などの権力、旧約聖書は悪魔に由来するため否定されました。

さらにキリストの受肉も否定されています。

仮現説とはイエスの身体性を否定する異端の教説です。

イエスの人としての誕生や行動、死は人間の目に現実と見えただけと考えます。

ボゴミル派は仮現説に近いという特徴があります。

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